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知識と知性の違いとは|なぜ人類は賢くなったのに愚かなままなのか

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霧の中へと果てしなく続く古い書架。知識の蓄積の先に広がる真の無知を象徴するイメージ

組織開発・従業員満足度(ES)コンサルタント/従業員満足度研究所 代表 藤原清道

「可視化された無知」と「真の無知」の違い、そしてそれが現代社会や私たちの生きる世界にもたらす影響について、前回お話ししました。

「頭がいい人」が組織の思考を止める理由|可視化された無知と真の無知
「頭が切れるのにチームからアイデアが出ない」——その原因は"知性"の誤解にあります。可視化された無知と真の無知の違いから、組織の思考を止める人・起動させる人の決定的な差を、組織開発コンサルタントが解説します。

今回はその続きとして、この考え方が組織のマネジメントに何をもたらすのかを掘り下げます。

「可視化された無知」と「真の無知」——たった二つの違い

「可視化された無知」「真の無知」という言葉は聞き慣れないため、それだけを聞くと分かりにくく感じるかもしれません。要するに、こういう違いです。

① 何が分からないかが分かっている状態(可視化された無知)

② 何が分からないかが分からない状態(真の無知)

そして前回は、日本の学校教育システムの中では②の状態の人を「アタマが悪い人」と断じてしまう傾向があること、さらに①こそが良い状態だと盲目的に信じてしまっている人が学業エリートに多いことを、私が危惧しているとお伝えしました。

学校教育の中にいる学生や大企業のサラリーマンの世界では、①でその無知を埋めていく——つまり課題をクリアしていく人が「優秀」と定義され、称賛されます。そこに安住してしまうと、知性の本質を感じ取るセンサーが、どんどん鈍っていってしまうのです。

世界最高峰の頭脳が、なぜ世界を平和にできないのか

社会には、まだまだ人間には分からないことがたくさんあります。想定外のことも次々に起こります。IQが高く聡明な人であっても、何が分からないかが分からないことは山ほどあるのです。

たとえば、大国が仕掛ける戦争や軍事作戦は、まさにそのジレンマの中にあります。聡明な人たちが最新のテクノロジーをフル活用しているにもかかわらず、争いは終わらない。歴史を振り返れば、同じ構図が何度も繰り返されてきました。

もし世の中に正解があって、①だけで人間と、人間が集う集団の知的成長が遂げられるのだとしたら、世界最高峰の頭脳と資金と技術を持つ国々が、とっくに世界を平和にしているはずです。でも、そうはなっていない。それが現実です。

優秀な人材を揃えた組織が、なぜ繁栄しないのか

これは国家だけの話ではありません。企業でも、医院でも、あらゆる組織で同じことが起きています。

優秀な人材を集め、課題を可視化し、一つひとつクリアしていく。それ自体は大切なことです。しかし、それだけで組織が良くなるのであれば、優秀な人材を揃えた組織は必ず繁栄しているはずですし、離職や人間関係の問題も起きないはずです。

現実はどうでしょうか。むしろ、「何が分からないかが分からない」という状態に対して、どれだけ謙虚でいられるか。そこにこそ、組織の知性の深さが表れるのではないかと、私は考えています。

「分からない」と言えることは、弱さではなく知性の強さ

②の状態を恐れず、むしろそこに身を置けること。「分からない」と素直に言えること。正解のない問いの前で、立ち止まれること。これは弱さではなく、知性の強さそのものであると私は考えています。

学校教育では「分からない」は減点対象でした。「何が分からないかも分からない」という人に至っては、「アタマが悪い人」というラベルすら貼ってしまうのが、学校という偏った世界でした。

しかし、社会に出てからの「分からない」は、新しい何かが始まる入口になっています。真の無知——何が分からないかが分からない状態こそが、知的成長の強力な駆動力になるということを、私たちは知っておかねばなりません。

なぜ人類は、これほど賢くなったのに愚かなままなのか

ここで少し視野を広げてみます。人間は成長をする生き物であるにもかかわらず、100年前、200年前、いや1000年前の人間と比較しても、相変わらず愚かな言動を繰り返し続けています。他人事のように言ってしまいましたが、もちろん私自身も愚かな人間の一人です。

現代に生きる私たちは、先人たちの成功や失敗、多くの研究や学習の積み重ねから、たくさんのことを学べます。何千年にもわたって人類が積み重ねてきた「知」があり、私たちはそこにアクセスできます。進化し続けるテクノロジーの恩恵もあり、人間としての未熟さを誰もが補えるようになりました。能力の拡張も容易です。

200年前の人から現代を見れば、地球の裏側の人と顔を見ながら対話できるなど、空想や魔法の世界でも想像できなかったような奇跡の中に、私たちは生きています。

つまり、私たちの「できること」や「理解できること」は、年々増える一方だということです。しかしそれで、私たちは幸せに近づいているのでしょうか。知的成長ができているのでしょうか。

相変わらず愚かな戦争、相変わらず愚かな不正や不祥事がなくならないという現実に目を向けたとき、「理解できること」が増えたことそのものが、私たちを賢くしているわけではないと気づきます。

「分からない」への耐性が、むしろ下がっている

むしろ、「理解できること」が増えれば増えるほど、人間は「もう大体のことは分かっている」という錯覚に陥りやすくなる。これが厄介なのです。

知識が増えた。テクノロジーが進化した。情報にアクセスできるようになった。その結果、何が起きたか。「分からないこと」に対する耐性が、むしろ下がってしまったのではないでしょうか。「何が分からないかが分からない」という状態に向き合う力が、劣化してしまったのではないでしょうか。

分からないことがあると、すぐに検索する。AIに聞く。誰かの正解を借りてくる。それで「分かった」ことにしてしまう。

でもそれは、①の「可視化された無知」を埋める作業を、以前より高速で回しているだけです。②の「真の無知」、つまり何が分からないかすら分からない領域に対しては、何も変わっていない。むしろ、その領域があることすら忘れてしまうようになった、と言っても過言ではないでしょう。

「理解できないこと」のリストを長くする

もしかしたら、「理解できること」のリストを長くする以上に、「理解できないこと」のリストを長くすることの方が、人間の知的な成長にとってはよいことかもしれません。

知性について(光文社) 内田樹

この一見矛盾した主張には、妙に納得感があります。皆さんはどうお感じになるでしょうか。

「分からないことがこんなにもある」「何が分からないかも分からないことがたくさんある」と自覚できること。それ自体が、知性の深まりではないかと思うのです。逆に、「大体のことは分かっている」と感じている状態は、知性が後退しているサインかもしれません。

「理解できること」が増えると、人間は自分の知性を過信します。「あの失敗の原因は知っている。だから自分は大丈夫だ」と。これが最も危険な知性の使い方です。本当に大切なのは、知れば知るほど「自分にはまだ見えていないことがある」と感じられる感性のほうです。真の無知の中で思索する時間を、いかに長くできるか。

知識と知性の違い——知性だけが人間を成熟させる

私たちは、歴史上の偉人たちが残してくれた膨大な知にいつでもアクセスできる環境を与えられているのに、200年前の人が見たら腰を抜かすほどのテクノロジーを使えるようになっているのに、なぜ人間同士の殺し合いすら無くせないのでしょうか。それは、私たちが「知性」というものを誤解しているからではないかと、私は思っています。

知性とは、たくさんのことを知っていることではない。難しい問題を解けることでもない。知性とは、何が分からないかすら分からないところからスタートし、自分が何を分かっていないかに気づき続ける力のことです。そして、その「分からなさ」の前で、安易な答えに飛びつかず、とどまり続けられる力のことです。

知識は外から与えられます。しかし知性は、自分の内側からしか生まれません。「理解できないこと」のリストを長くしていく営みの中で、少しずつ育まれていくものです。私たちが本当に磨くべきは、知識ではなく、知性のほうです。知識は能力を拡張してくれますが、知性だけが、人間を成熟させてくれるのだと思います。

組織の成長を分ける「分水嶺」はどこにあるか

組織においても同じです。リーダーが「うちの課題は把握できている」と言い切れてしまう組織よりも、「まだ見えていない問題があるはずだ」と思い続けている組織のほうが、長い目で見れば強い。

組織のリーダーが②の状態を受け入れられるかどうか。ここが、その組織がどこまで成長できるかの分水嶺になると、私は思っています。

課題を可視化し、効率よく潰していくマネジメントは、たしかに成果を生みます。しかし、それだけを繰り返す組織は、いつか必ず頭打ちになります。地図の内側しか歩かないからです。

「私にも分からない」とリーダーが言えたとき、そこにいるメンバーは初めて、自分の頭で考え始めます。答えを持っている人がいない場に立ったとき、人は考えざるを得なくなるからです。それが、組織の知性が動き出す瞬間です。

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