ブログ

中小企業の採用難の本当の原因|「採用できない」のではなく辞めているから

  • 公開日:
木工の手道具が壁一面に掛けられた作業場。手前に削りかけの木材と削り屑が散っている

人が採れない、という相談をよく受けます。

求人を出しても応募が来ない。来ても求める人材ではない。ようやく採用しても続かない。だから、また募集する。

この状態にある経営者に、私はいつも同じ質問をします。

「この一年で、何人辞めましたか」

「採用できない」という言い方が、すでに答えを外している

採用について書かれた記事を、私も一通り読んでみました。挙げられている理由は、どこもほとんど同じです。

少子高齢化で労働人口が減っている。中小企業は知名度が低い。大企業に人材が集中している。採用予算が限られている。専任の担当者がいない。

すべて事実です。反論の余地はありません。

ただ、私はこれらを読むたびに、居心地の悪さを感じます。

挙げられている理由が、すべて自社の外側にあるからです。

少子高齢化は自分では変えられません。知名度も、大企業の採用力も、明日どうにかなるものではない。そして、外側に原因を置いた記事の結論は、判で押したように同じところに着地します。だから採用ツールを、だから採用代行を、と。

商売としては、正しい構造だと思います。原因が外にあるなら、外から解決策を買うしかありませんから。

しかし、経営者としてこれを受け取ってしまうと、打つ手が一つもなくなります。

私自身が、他責思考の塊でした

こう書いている私が、かつては誰よりも他責思考の人間でした。

20代の頃も、経営者になってしばらくの間も、うまくいかない理由を自分の外側に探し続けていました。景気が悪い、業界が特殊だ、社員の質が低い、時代が変わった。理由はいくらでも見つかります。探せば必ず見つかるようにできているのです。

そして、理由を見つけた瞬間、思考が止まります。

私は組織崩壊を経験して、ようやくそのことに気づきました。あの時に人が離れていった原因は、労働市場にも、業界構造にも、社員の質にもありませんでした。全部、私の中にありました。

ですので、採用難を外部環境で説明する言説に対して、私は強い抵抗を感じます。それが事実として正しくても、です。正しい説明と、前に進める説明は別のものだというのが、私の立場です。

採用は入口の問題ではなく、出口の問題です

では、内側に原因を置くと何が見えるか。

採用しなければならない状況が、なぜ発生しているのかを考えてみてください。事業拡大による増員なら、それは健全な採用です。しかし多くの場合、そうではありません。誰かが抜けた穴を埋めるための採用です。

つまり、採用難として現れている問題の多くは、離職の問題です。

出口が開いているから、入口を広げ続けなければならない。入口をいくら広げても、出口が開いたままなら水位は上がりません。求人広告の書き方を改善する前に、なぜ人が出ていくのかを見るほうが先です。

さらに厄介なのは、この二つが時間差で現れることです。

優秀な人が辞めても、しばらくは何も起きません。残った誰かが穴を吸収するからです。経営者は「大変だったが何とかなった」と感じ、問題は認識されません。そして数ヶ月後、吸収していた側が限界を迎えた時に、「急に人が足りなくなった」という形で顕在化する。

その時点で募集をかけても、遅いのです。すでに現場は疲弊していて、新しく入った人を育てる余力がない。だから続かない。続かないからまた募集する。

この構造については、別の記事で詳しく書きました。

→ 「優秀な人が辞める本当の理由|『何も起きていない』が一番危ない」

「働きやすさ」を売って採用すると、何が起きるか

ここからは、おそらく多くの採用支援会社と意見が分かれるところです。

近年、求人票や採用サイトで前面に出される言葉が、ほとんど揃ってきました。風通しが良い。残業が少ない。休みが取りやすい。アットホーム。無理をしなくていい。

私は、この方向に強い違和感があります。

それらは働く理由ではなく、働く条件だからです。

条件で人を集めると、条件で人が去ります。もっと休みの多い会社、もっと残業の少ない会社が現れれば、そちらに移る。当然です。条件を理由に来た人に、条件以外で留まることを期待するのは筋が通りません。

そして、ここが一番の問題なのですが、条件を売りにする会社には、条件で選ぶ人しか来なくなります。

働きやすさを否定しているのではありません。整備すべきものです。ただ、それは前提条件であって、訴求点ではない。前提条件を訴求点にした瞬間、その会社は「楽さ」の市場で戦うことになり、資本のある会社に必ず負けます。

飢えと満足は、同居できます

私の会社では、責任ある立場の人間ほど大きな飢えを持っています。強くなることにも、成果を上げることにも貪欲で、それを隠しません。

同時に、成果主義の組織にありがちなギスギスした空気はありません。頑張りたくても頑張れない事情を抱えた仲間が、それでも活躍できる場を維持することを、大切にしています。

この二つは、両立しないと思われがちです。厳しいか優しいか、成長か安心か、どちらかを選べと言われる。

私は、同居できると考えています。というより、同居させることこそが経営者の仕事だと思っています。

なぜこの話を採用の文脈でするかというと、多くの会社が、採用の場面でこのどちらか一方しか語らないからです。

成長を語る会社は、厳しさだけを語る。働きやすさを語る会社は、優しさだけを語る。しかし人が本当に求めているのは、その両方がある場所です。伸びたいし、安心もしたい。矛盾ではありません。人間とはそういうものです。

両方を正直に語れる会社には、両方を求める人が来ます。そういう人は、条件では動きません。

「良い人材が採れない」と言う前に

古い言葉に、腕のない大工は良い木材を台無しにするが、名工は節も曲がりも長所として生かす、という趣旨のものがあります。

採用に苦しむ経営者の話を聞いていると、多くの場合、良い木材を探す話をしています。優秀な人が採れない、うちに来てくれる人材の質が低い、と。

しかし、市場に出回っている木材の質は、どの会社にとっても同じです。違うのは、それを扱う側の腕です。

節がある。曲がっている。真っ直ぐでない。それを欠点と見て弾いていけば、採用できる人はいなくなります。同じ材を、長所として生かせる場所に置ける経営者のもとには、人が集まり、育ち、残ります。

私は長い間、前者でした。個性を抑え込み、画一的に育てようとして、重苦しい空気のチームを作り上げていました。だからこそ、良い木材を台無しにしている経営者が世の中にどれだけ多いか、そしてその自覚がどれだけ持ちにくいかが、よく分かります。

「良い人材が採れない」と言っている限り、名工にはなれません。

採用も、当てにいくと当たらない

弓の世界に、正射必中という言葉があります。正しく射れば、必ず中る。逆ではありません。中てようとして射た矢は、中らないのです。

採用も同じだと思っています。

採用を「当てるゲーム」として運用すると、目先の一人は採れるかもしれません。しかし、そのやり方を続ける限り、射手としての腕は上がらない。翌年も、その翌年も、同じ苦戦を繰り返すことになります。

では、正しく射るとは何か。

人が辞めない組織を作ることです。 そしてそれは、採用施策ではありません。日々の経営そのものです。

一人ひとりが何に喜びを感じ、何に消耗しているかを把握すること。誰がどれだけ組織の穴を吸収してくれているかを知ること。外的報酬だけでなく、内的報酬——成長の実感、仕事の意味、自分が見られているという感覚——を設計すること。

地味です。時間もかかります。今月の欠員には間に合いません。

しかし、これをやっている会社は、数年後に採用で苦労しなくなります。辞めないからです。そして、辞めない会社には、人づてに人が来ます。私の会社もそうです。

それでも、採れない時期はあります

ここまで内側の話をしてきましたが、外部環境が存在しないと言っているわけではありません。

労働人口は現実に減っていますし、地方であれば母数そのものが少ない。業種によっては、構造的に人が集まりにくいものもあります。私自身、それを軽視するつもりはまったくありません。

言いたいのは、外部環境は前提であって、原因ではないということです。

同じ市場環境の中で、人が集まる会社と集まらない会社があります。同じ地域の同じ業種でも、差が出ます。その差を生んでいるものは、外側にはありません。

外部環境を理由にした瞬間、その差を生んでいるものが見えなくなる。それが、私が最も避けたいことです。

辞めた人の数は、すでに手遅れの指標です

冒頭の質問に戻ります。

この一年で、何人辞めたでしょうか。そして、その人たちが辞めた理由を、正確に把握しているでしょうか。

退職面談で聞いた理由ではありません。あれはほとんどの場合、本当の理由ではないからです。円満に去るための、当たり障りのない説明です。

ただ、正直に言えば、この質問だけでは足りません。

辞めた人の数は、すでに起きてしまったことの記録です。数えられるようになった時点で、原因は何ヶ月も前に終わっています。そこから手を打っても、次に辞める人には間に合いません。

見るべきは、今この瞬間に残っている人たちです。

今いるスタッフは、疲弊していないでしょうか。

誰かの抜けた穴を、静かに引き受けている人はいないでしょうか。本来の担当ではない仕事が、いつのまにか特定の一人に集まっていないでしょうか。「大丈夫です」と答えるその人は、本当に大丈夫でしょうか。

そしてもう一つ。

今いるスタッフは、仕事を楽しんでいるでしょうか。

これは、満足しているか、不満がないか、とは違う問いです。不満がない状態と、イキイキしている状態の間には、大きな距離があります。多くの職場は、その距離を埋めないまま「特に問題はない」と判断しています。

仕事を楽しんでいる人がいる会社には、人が集まります。求人媒体を通してではなく、人づてに来ます。そこで働いている人が、外で楽しそうに自分の仕事の話をするからです。それ以上に強い採用広報を、私は知りません。

逆に言えば、今いる人が疲れた顔で働いている会社に、どれだけ求人にお金をかけても意味がない。応募者は、面接の三十分でそれを見抜きます。

数字で把握した気になっていないか

そしてもう一つ、マネジメント側に問いたいことがあります。

一人ひとりが仕事を楽しんでいるかどうかを、日常の中で気にかけているでしょうか。

年に一度や二度のサーベイを実施して、その結果を見て、把握した気になっていないでしょうか。

私はES(従業員満足度)を専門にしている人間ですから、この話は自分の商売に跳ね返ってきます。それでも書きます。

一人ひとりの「心」は、数値化したもので把握できません。

サーベイの数字は、一面の参考にはなります。全体の傾向を掴む、経年で変化を見る、気づいていなかった領域に光を当てる。そういう用途では有効ですし、私自身も使います。

しかし、数字は平均を出します。平均は、一人ひとりの顔を消します。

満足度が七割だったとして、その数字からは、誰がどんな理由で満たされていて、誰が何を諦めているかは分かりません。設問にない不満は、そもそも数字に現れません。そして最も重要なことに、サーベイに正直に答えるかどうかは、その組織への信頼の関数です。信頼のない組織ほど、数字は良く出ます。

数字が悪い会社より、数字が良いのに人が辞めていく会社のほうが、根が深い。

日常の中で、その人の表情が変わった。口数が減った。前なら言っていたことを言わなくなった。そういう変化は、数字が出るずっと前に現れています。それを拾えるのは、年二回の調査票ではなく、日々その人の隣にいる人間だけです。

サーベイは、日常の観察を補うものです。日常の観察を代替するものではありません。順序を逆にした瞬間、その組織は数字を管理し始めて、人を見なくなります。

辞めた人の数を数えるのは、事後の作業です。残っている人の状態を見るのは、事前の作業です。

採用に苦しんでいるなら、求人媒体を変えるより、採用単価を上げるより、まず今いる人たちの顔を見てください。遠回りに見えて、これが一番早い道だと、私は考えています。

関連記事

▼「問題が起きていないから大丈夫」という、組織で最も危険な錯覚▼

「問題が起きていないから大丈夫」という、組織で最も危険な錯覚
人を減らしても現場は回っている。だから元々余裕があったのだ──この推論が、組織を静かに壊していきます。何も起きていない状態を支えているのは誰か。企業の属人化と、国境を守る現場のESから考えます。

▼優秀な人が辞めても、しばらく何も起きない。それが一番危ない▼

優秀な人が辞めても、しばらく何も起きない。それが一番危ないのです
優秀な社員が辞める理由を調べても対策が効かないのは、問題の起きている場所が違うからです。優秀な人ほど組織の穴を吸収するため、経営者には何も起きていないように見える。属人化の棚卸しと、面談での聞き方を変える具体策まで。

日本で唯一のESに特化した
会員制メルマガ

月額880円(税込)※1ヶ月間無料購読可

会員制メルマガについて詳しく見る

当社の「従業員」の定義

当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。

一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。

書籍のご案内

ES2.0書籍のサムネイル

代表の藤原清道が自ら経営する会社での実体験を通して得た、従業員満足度を上げるための実践的なノウハウをお伝えする、経営者やリーダー必読の一冊です。

Amazonで購入する
ES2.0書籍のサムネイル

手軽に学び始めたいという方はこちら

日本で唯一の
ESに特化したメルマガ

メールのアイコン

2008年の創刊以来、毎日配信し続け6580号。
採用や組織作りを中心とした現役経営者の思考を学べる
1ヶ月間無料の日刊の会員制メールマガジンです。

会員制メールマガジンを購読する

気軽に情報収集から始めたい方はこちら

note / X / YouTube

従業員満足度研究所 代表 藤原清道

noteは週3〜4本、Xは毎日発信、YouTubeも平均月に2本アップ。
採用や組織作りなどについて無料で学べる公式アカウント。
メルマガはハードルが高いと感じられる方は、
まずSNSのチェックから始めてみてはいかがでしょうか。

対談企画

定着と報酬の関係

代表の藤原清道が、株式会社ワイキューブ創業者で境目研究家の安田佳生さんと対談しています。

サービスについてご質問などがございましたら、こちらからお問い合わせください。

お問い合わせはこちら