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逆算思考のデメリットとは?計画に傾倒しすぎる危険性を、ある怪我から考えた

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竹垣越しに見える和風庭園と、緩やかに曲がりながら奥の東屋へ続く石畳の小道

逆算思考は、ゴールから逆算していまやるべきことを決める、ビジネスの王道の思考法です。しかし、それに傾倒しすぎると、想定外を排除し、人生の面白さを自ら手放してしまう危険があります。この記事では、逆算思考のデメリットを3つに整理したうえで、計画と想定外をどう共存させるかを、私自身の怪我とある職人との出会いを通じてお伝えします。

数ミリの板が、人生を変えた日

先日、埼玉県の東大宮まで、足底板(インソール)を作ってもらいに行ってきました。靴の中に入れる、たった数ミリの中敷きです。

そのためだけに、自宅から片道2時間以上をかけ、作成に2時間半、往復と合わせて約6時間半。ある内科医から紹介された、公式サイトもSNSも持たない工房でした。ウェブ上にはほとんど情報がないのに、これまで1万5千人以上の足底板を手がけてきたという職人技の持ち主です。

帰宅して、その足底板を入れた靴で家の周りを歩いてみました。たった数ミリの板が入っただけなのに、地面の感触がまるで違う。自分の身体なのに、知らなかったことがこんなにあったのかと驚きました。

この一日は、私にとって「逆算思考」というものの限界を、あらためて考えさせるものになりました。

そもそも、この出会いは計画できなかった

昨年、私は右膝の半月板水平断裂を経験しました。半月板は一度断裂すると骨折のようには治らず、その状態が一生続きます。走れない、正座できない、スポーツもほぼできない——受傷直後は、この制約が一生つきまとうという現実を受け止めるのに時間がかかりました。

ところが、その怪我があったからこそ、身体と本気で向き合うようになった。向き合ったからこそ、東大宮の職人と出会えた。出会えたからこそ、これから先の歩き方が変わる。

もし半月板を断裂していなければ、この出会いはありませんでした。「半月板を断裂させよう」と計画する人は、この世にいません。つまりこの出会いは、どんなに緻密な逆算思考をもってしても、絶対に設計できなかったものなのです。

逆算思考とは何か

念のため整理しておきます。逆算思考とは、目標やゴールを先に定め、そこから達成までのプロセスを洗い出して、いま何をすべきかを決めていく思考法です。締切から逆算してタスクを配置するため、最短ルートを設計しやすく、ビジネスの現場では推奨される王道の考え方です。

その価値を、私は否定するつもりは一切ありません。問題は、それに「傾倒しすぎる」ことにあります。

逆算思考の3つのデメリット

逆算思考に傾倒しすぎると、次の3つの落とし穴に落ちます。

1. 想定外を「計画の邪魔」として排除してしまう

計画通りに進まないことに焦り、予定になかった出来事を歓迎できなくなります。しかし人生の面白さは、しばしばその想定外の側にあります。私の怪我と職人との出会いが、まさにそうでした。

2. サンクコストバイアスに引っ張られる

すでに機能しなくなった計画に、これまで費やしてきた時間やお金が惜しくてしがみついてしまう。その場その場で最善を尽くす意思決定よりも、「当初の計画の遂行」そのものが目的化してしまうのです。

3. 過去の計画にばかり意識が向き、いまが見えなくなる

骨格を組んだことに満足して、その骨格を活かして「どう歩くか」を忘れてしまう。計画を立てた時点で思考が止まり、目の前で起きている変化に対応できなくなります。

スティーブ・ジョブズが遺した言葉

スタンフォード大学の有名な卒業式スピーチで、ジョブズはこう語りました。

先を見て点と点を繋ぐことはできない。振り返って初めて繋がるのだ。
You can’t connect the dots looking forward.
You can only connect them looking backwards.

出来事の意味は、その瞬間には確定しません。後からつくられていくものです。

私たちは、人生で起こる出来事を、その場で「良いこと」「悪いこと」に分類しがちです。しかしその分類は、あくまでその時点での暫定的な評価にすぎません。半月板の断裂は、受傷した瞬間には紛れもなく「悪いこと」でした。それが一年後、心から歓迎できる出来事に変わったのです。

先を見て点と点を繋ぐことはできない。できるように期待することはできても、期待通りにならないのが人生です。この現実から目を逸らしてはいけません。

計画は「骨格」、想定外は「足底板」

誤解してほしくないのは、だから計画は無意味だ、と言いたいわけではないということです。

計画は、人生の「骨格」のようなものです。骨格がなければ、人は立つことすらできない。5年後、10年後、20年後の計画があるからこそ、未来に希望を持てるし、希望があるからこそ、地に足をつけた現実的な決断を続けられます。

しかし、骨格だけでは歩けません。筋肉や腱、そして今日の話でいえば足底板のような、外からは見えない細やかな調整があって、初めて人は自分らしく歩ける。

計画は骨格。想定外は、その骨格を支える筋肉や足底板のようなもの。

人間の骨格は変えられませんが、人生の骨格は、家を建て直せるのと同じように、どのタイミングからでも組み替えられます。

逆算思考と「積み上げ思考」を共存させる

ここで役立つのが、逆算思考と対になる「積み上げ思考」という考え方です。積み上げ思考とは、いまあるリソースで小さな試行錯誤を重ね、進むべき道を探っていくアプローチを指します。

逆算思考で人生の骨格(遠い目標と大まかな方向)を作り、積み上げ思考でその場その場の最善を尽くしながら歩いていく。この二つは対立するものではなく、共存するものです。羅針盤として逆算思考を使い、エンジンとして積み上げ思考を回す——そう考えると、両者はきれいに噛み合います。

想定外を、どう受け容れるか

これから先も、想定外は必ず起こります。そのときに問われるのは、たった一つの選択です。

その想定外を「計画の邪魔」として排除するのか。それとも、「まだ意味の見えていない一つの点」として受け容れるのか。

半月板が断裂したとき、私の「計画」は、ある意味で崩れました。走れない、正座できない、スポーツもできない。その崩れた計画を嘆くこともできました。しかし私は、代わりに「身体と本気で向き合う」という新しい一歩を踏み出しました。その一歩が、今日の東大宮に繋がった。

振り返れば、点と点が繋がっています。

計画を立てましょう。ただし、計画通りにいかないことを前提に立てましょう。そして計画が崩れたときこそ、サンクコストに引きずられず、その場の最善を選ぶ。想定外をポジティブに受け容れる姿勢こそが、人生を豊かで、自分らしいものにしていきます。

明日からの歩き方が、文字通り、変わります。一生治癒しない怪我をしたことを心から喜べる日が来るなど、昨年の私には想像すらできませんでした。

人生はこれだから面白いのです。

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