「企業の第一の目的は利益の追求である」
「利益の最大化が経営者の使命である」
どこの誰の言葉なのか知らず、またその言葉の真意も知らず、ただただそのような言葉ばかりが自分の脳内を支配し、金儲けの能力だけが経営者の能力であると信じて走り続けた。
商品やサービスが売れ続けている事実は、お客様が喜んでくださっているということであり、お客様からの支持が増え続けていることでもあり、自信を持って利益を追求すればいい。そのように信じて疑わなかったが、業績が向上し続ける会社の雰囲気は、なぜか日に日に悪くなっていった。
社内には笑顔もなければ雑談もない。
それでも、厳しく数字を追う営利企業にあって、多少の雰囲気の悪さはやむを得ないものと割り切って経営をしていた。
売上や利益目標を設定し、毎年過去の売上利益を大幅に更新していく。売上利益を上げ続け事業を拡大していくと、取引先やメディアなどからの評価も高まっていく。感謝の言葉や称賛の言葉も集まってくる。
まだまだ人間的に未熟な経営者である私が、勘違いをしていくには十分すぎる条件が整ったのだった。
その結果、ほどなくして組織が崩壊。
最初の事業を創業して8年目の2005年(平成17年)のことだ。従業員が、一人また一人と退職願を出していく。最初の2,3人が退職したときには、「まぁそんなこともあるだろう」くらいに思っていたのだが、それから2年後に将来の幹部候補と見込んでいた人材からの退職願を受け取った時に、遅まきながら「異変」を感じ取った。
「藤原さん、あなたのやり方にはついていけない」と思いつめたように彼は言う。そして、「藤原さん、みんなが辞めていった本当の理由をご存知ですか?」と。
創業以降、毎年売上利益が向上し、それに比例するようにして全従業員の給与も向上。ボーナスも増え続け、福利厚生制度も充実させてきた。残業や休日出勤が常態化していた状況を変えるために、ノー残業デーを設定したり、やむを得ない休日出勤には手厚い手当も支給するようにした。まだ世の中に「働き方改革」なんていう言葉がなかった時代だ。
しかし現実は、私が想像もしていなかったカタチで目の前に現れたのだった。信頼されていると思っていた従業員の方たちが相次いで離職。年々向上し続ける給与も、年々整備されていく福利厚生も、彼らを引き止める要素にはならなかった。
あまりに突然のことにしばらく思考停止した。会社として利益を上げ、その利益から生み出される給与や福利厚生が充実すれば、一緒に働く人たちは更にがんばって働いてくれるに違いない。そう信じていたからこそ、多少強引でも利益を追求するような行動をしてきたのだし、仲間たちにも無理を強いてきた。
一人ひとりの不満そうな表情も見て見ぬ振りしていたわけではない。その分は、給与や福利厚生で報いてきた。それ以上、何が必要だったんだ?
来る日も来る日も考え続けた。
何のために経営をしているのか?
何のために人間は生きているのか?
仕事とは何なのか?
人生とは何なのか?
利益とお金を追求し続けて、行き着くところはどこなのか?
しあわせとはなんなのか?
お金があれば人はしあわせになれるのか?
しかし、お金がなければつらい思いをするではないか?
何日も、何ヶ月も考え続けた。
創業メンバー以外の全員が退職し、多忙を極める中でも、考えることを止められなかった。懸命に考えるようにしたのではなく、考えざるを得なかったのである。
寝る間を惜しんでさまざまな本を読むようになったのもこの頃。何かに導かれるようにして松下幸之助氏や稲盛和夫氏の本に出会い、それまでは全く縁のなかったドラッカーや一倉定氏の本も読むようになった。
未熟で人間力も低かった当時の私は、どの書籍の中からもはっきりとした唯一無二の答えを見つけることはできなかったが、自らが答えにたどり着くためのヒントをいただき、ようやく正気を取り戻した。
理念やビジョンも掲げず、ただ利益至上主義で仕事をしていることが狂気の沙汰であり、人としてのしあわせをお金でなんとかできると思いこんでいた愚かさと傲慢さに気づき、去っていった仲間たちに申し訳ない気持ちが溢れて止まらなかった。
この体験からこんな企業理念を掲げるようになった。
「仲間と自分のしあわせを考え、仲間と会社を大切にし、仲間とともに社会の発展に貢献する」
そして生涯をかけて追求する人生の目的として「みんなが楽しく働けて、みんなが輝ける組織をつくる」という個人理念も設定した。
『従業員満足度』という言葉が私の脳裏に深く刻まれた。どれだけ多額の利益を計上することができたとしても、ともに働く仲間がしあわせになることができないような事業に意味はない。そして、そのような組織が存在することは社会の発展にもマイナスの影響しかない。自らの経営者としての価値基準が、根本から変わった瞬間だった。
「心ゆたかにイキイキとはたらく人を増やすことで、質の高いサービスをお客様に提供する」という現在掲げるミッションも、この時に生まれたものだ。
そこからさまざまな試行錯誤を重ね、「従業員満足度」「従業員エンゲージメント」「働きがい」「職場から得られるしあわせ」「成長意欲を満たす組織」など、そうしたことを、寝ても覚めても考えるようになった。
なぜ、人は働きたくなるのか。なぜ、人は他者のために尽くしたくなるのか。職場や仕事から得られる深い満足度や充実感は、どこから生まれてくるのか。この絶え間ない思考が、藤原清道という人間と事業を作り変えていく事になった。
後年設立される従業員満足度研究所からリリースされる、さまざまな商品やサービスには、こうした私の実体験がベースとなって開発されていくことになる。
すべては、「みんなが楽しく働けて、みんなが輝ける組織づくり」の支援につながるかどうか。ここに、お客様へ提供する価値にコミットする藤原清道と従業員満足度研究所の変わらぬ姿勢の源泉がある。
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12 第二創業期〜 クレド経営との出会い 〜当社の「従業員」の定義
当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています。
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。
一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で、
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。
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