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プロフィール
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ミラノ出張〜 911の直後に国際線に搭乗する 〜

2001年9月11日。自宅で夕食を食べていた時に、テロリストにハイジャックされた旅客機がニューヨークのワールドトレードセンタービルに突っ込むライブ映像が、目に飛び込んできた。映画のワンシーンが映し出されているのかと見紛うような衝撃の映像だったが、すぐに現実のものだと分かり、頭が混乱した。

二機の旅客機が立て続けに二つのタワーに激突。三機目はペンタゴンに墜落した。遠い国の出来事なのに、強い恐怖を身近に感じた。戦争を知らない時代に生まれた私は、「もしこれが世界大戦への序章となったら、自分は一人の日本人として何ができるのだろう」と考え、さらに頭が混乱した。

すぐにアメリカ国内の民間空港が封鎖されたが、日本では北米を行き来する飛行機以外には、大きな影響が出ていないことにも驚かされた。そして、翌朝の日本ではいつもと変わらない時間が流れていた。世界が直ちに大戦へ突入したわけではなかったため、私はすぐに思考も行動も日常に戻した。

どんなときでも最悪を想定し、想定外のことがいつ起きても動じないような覚悟の持ち方は、この時に身についたように思う。私にとっては、想定外のことに対する心構えが根本から変わるような大きな出来事だった。

一週間後には、イタリア・ミラノへの出張を控えていた。ミラノで行動をともにする予定だった取引先企業の社員には、9月11日以降海外出張の禁止令が出ていた。世界中のどこでテロが発生するかは誰にもわからない。

しかし意外にも、世界はすぐに平静を取り戻した。

取引先企業の海外出張禁止令も解除され、私も予定通りの便でミラノに向かった。ミラノでの滞在は二週間。現地では、私が事業を営む業界の世界的ビジネスショーが開催されていて、世界各国の人たちとの商談が予定されていたが、英語が一切話せない私は、商談の度に通訳の方にお世話になった。通訳がいれば英語などできなくても何の問題もないと考えていた私だったが、現地での仕事を通じて衝撃の事実を知る。

ミラノの展示会場

それは、こうした世界のビジネスショーに来て仕事をする人間で、英語が話せないのは日本人だけであるということ。英語が公用語ではない国から集まっている人たちの中でも、こうしたビジネスショーに来ている人たちは、日本人を除いて全員が英語を話した。そもそも、英語を話すことができなければ、こういう職務を任されることはないのだと言う。

それが、日本人だけは、英語を話すことができなくてもそれなりの職務につくことができ、こうして海外出張時には通訳をつける。通訳をつけて一端のビジネスパーソンになったつもりになっていた自分が恥ずかしくなった。

それでも、二週間の滞在中に一緒に仕事をしていたイタリア人のフラビオと仲良くなった。初めてのイタリア滞在で分かったことだが、街なかで暮らす一般の人達には、日本国内と同じかそれ以上に英語が通じないということ。空港やホテルなど一部の場所では英語が通用するが、街なかではイタリア語を話せないと生活はかなり不自由だ。それでも、ビジネスショーで仕事をするフラビオは、当然英語を話した。

職務中のミーティングでは、私は通訳を介して彼と話をしたが、仕事が終わった後のプライベートな時間には当然通訳はいない。彼は私に英語で話し、私は拙い英語とボディランゲージで彼とコミュニケーションを取った。

人柄の良い彼は、英語のできない私を人間として見下すようなことはなかったが、仕事時間中の通訳を介しての会話と、プライベートな時間の会話の内容に大きなギャップとストレスを感じたはずだ。

あるとき、愛煙家の彼は、懐からタバコを取り出すと私に向かってこう言った。
「May I smoke?」
私はこう答えた。
「No. Thanks.」と。

このやり取りだけでも、私の当時の英語力がいかにお粗末なものだったからお分かりいただけるかと思う。「ここでタバコを吸わせてもらってもいいか?」という問いに、「俺はタバコは吸わないからいらないよ」と答えているのだから。

彼は、私が「May I smoke?」を「君もタバコ吸う?一本どう?」と理解して、「No. Thanks.」と答えたことを瞬時に理解して、笑顔で自分のタバコに火をつけ、そして何事もなかったかのように振る舞った。その後、彼は行きつけのバーに連れて行ってくれてビールをご馳走してくれた。

ミラノの街並み

2001年9月下旬。アメリカ国内では、まだまだテロの恐怖に国民が怯え、国内線の運航すら回復していない時に、私はミラノに出張して仕事をし、海外での人脈を構築していた。わずか二週間だったが、このタイミングで日本を離れて自分や日本のことを俯瞰してみることができたことに、深い意味を感じた。

世界のどこかで大混乱が起こっていても、自分にはそれまでに培ってきた力しかない。世界の危機を救うことができる力が急に身につくわけではない。今自分が持っている力を使ってできることしかできない。できないことに対して無力感を抱き思考停止するのではなく、できることにフォーカスして、社会に対して自分なりの価値貢献を考えなければならない。

テロの撲滅に直接的に何かをすることはできないかもしれないが、目の前のお客様や取引先の方の為に力を尽くしきることはできる。

ご契約をいただいたお客様のために、そして一緒に働いてくれる仲間のために、自分の力を注いでいけば間違いないという確信を得た二週間のミラノ滞在となった。

しかし、こうした大切なことを学びながらも、当時の私はこのことを頭で理解していたにすぎなかったことを、その後に思い知らされることになる。

腹落ちしていない考え方は、頭では理解していても行動や習慣を変えるには至らない。お客様や取引先、そして社会のために価値貢献することが重要であることは理解しながらも、帰国後はすぐ、厳しい現実に引き戻されていった。

当社の「従業員」の定義

当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。

一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。

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