創業より5年が経過した2002年(平成14年)。不断の努力によってベンチャービジネスのコツのようなものを体得しつつあった私たちは、宣伝広告なども積極活用していた。メディアからの取材依頼も、一年を通じてコンスタントに入るようになった。業界内での知名度も上がり、こちらから積極的な営業をしなくても、いろんな企業から取り引きの申込みをいただけるようになっていた。
創業直後、世の中カネがないと何もできないことを痛感した経験から、会社立ち上げ当初に持っていた理想を捨て、利益至上主義を公言して憚(はばか)らないようにもなったのもこの頃。
創業当時から事務所内に掲げていた「顧客第一主義」という言葉は、オフィスの移転とともにいつの間にか掲示されなくなった。ここに至るまでに、さまざまな経験や出会いから大切なことを学び取ってきたはずだったが、売上が上がっていくに従って、頭でしか理解できていなかったことは、忙しさが増してくる空気の中に紛れ込んで、行方知れずになっていった。
社員も一人また一人と増え、業績は右肩上がり。結果が出始めたことで、自らの正しさが証明されたと思い込み、更なる利益至上主義へと加速。しかし、その時にはまだ、自らがおかした大きな間違いに気づくことはなかった。
小さな規模ながらも、事業を営む業界内では知らない人がいないような有名企業となっていた。外からは、順調に事業を拡大する成長企業に見えていたかもしれない。事実、1997年の創業以来、一度も業績を落とすことなく右肩上がりに増収増益を記録。
この渦中にいた私は、自分が利益至上主義であるという自覚がハッキリとあった。
しかし、お客様に喜んでいただける商品やサービスを提供し続けていれば、大きな利益をいただけるのは当然のことである。なんの後ろめたさもない。利益を追求していけば、結果としてお客様にも喜んでいただけるはずだ。利益至上主義で勝ち続けることこそが経営者としては一流である。この当時の私は、そう信じて疑わなかった。
創業以来、企業理念やビジョンのようなものを掲げてこなかった私たちだったが、この時点でもそのようなものの必要性すら感じていなかった。売上を求め、利益を求め、ただがむしゃらに努力を続けてきた結果、運よく上昇気流に乗っただけだったのに、その運の良さも実力のうちだと正当化していた。
勝てば官軍負ければ賊軍。どのような勝ち方でも勝てばいい。美しいやり方でも負ければそれまで。負けた企業は社会の中で生きることを許されないのだから、何が何でも勝たねばならないのだ。
崇高な理念やビジョンよりも、販売シェアやブランド認知の向上、そして売上や利益の向上を、周りの人や企業は評価した。
「これだけの成長はすごいですね」
「御社から学ばせてください」
こうしたことを言われる機会も増えていた。
それは、崇高な理念や美しい経営を評価されたわけではなく、知名度の向上や売上の向上という見かけ上の成長が評価されただけだったのだが、周りからのそうした評価によって、ビジネスはそれがすべてだと思いこんでいた。
ところが、その業績向上と反比例するように、社内の雰囲気は悪くなっていったのだった。
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11 組織の崩壊〜 従業員満足度への目覚め 〜当社の「従業員」の定義
当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています。
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。
一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で、
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。
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