プロフィール13 クレド開発から導入、そして実践 〜 粘り強さが作り上げたもの 〜

プロフィール
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クレド開発から導入、そして実践〜 粘り強さが作り上げたもの 〜

組織の崩壊という失敗経験が、結果として、自分自身が人生の中で大切にしていること(信念・信条)を深く掘り下げざるをえないことになったが、そこからの切り替えは早かった。自分たちの創業の目的を振り返り、時間をかけて企業理念を作り、その上でクレドの開発に着手した。

とは言え、この間もありがたいことにお客様からいただく仕事が増え続けていたため、お客様対応にまつわる仕事だけでも多忙を極め、クレド開発に時間を割く余裕はまったくない。

しかし、ここが正念場だ。クレドの開発から導入を社外コンサルに一任して作り上げてしまえば簡単であるし、自分の時間を取られることもないが、それでは結局自分の力にはならない。自分自身が経営者としての本質的な力を身につけなければ、また最初の失敗を繰り返してしまうだろう。

開発にあたっては、自らの足でさまざまな企業を回り、さまざまなタイプの経営者と対話する中で本質を掴むことを重要視した。そして、経営やマネジメントに関する古典的名著を読み漁った。

クレド先進企業としては、ザ・リッツ・カールトンホテルやジョンソン・エンド・ジョンソン社が有名だが、それらの企業のクレドを表層的に模倣しても、上手くいかないことは他社の事例を見ても明らかだったため、さまざまな企業のクレドを参考にしながらも、自社で独自に開発して導入することを決断。

この間に知り合った、あるコンサル会社の経営幹部は「うちも良さそうだと思ってクレドを作ってみたんですけどね。あれ意味なかったですね。全従業員に配ったけど、誰か今でも持っている人間はいるのかなぁ…。ぶっちゃけやるだけ無駄ですね」という発言を堂々としていたが、そんな意見を耳にしても、私に迷いはなかった。クレドに限らずどんなに優れた施策であっても、やり方次第で成功もすれば失敗もする。導入に失敗している企業の原因を理解すれば同じ轍を踏まずにすむ。

こうした独自の開発経験が、自社にもっとも適合する形でのクレドづくりの雛形を完成させた。またそれだけでなく、業種業態の異なる他社にも適合させられるような抽象度の高いクレドづくりから導入、運用に至るまでの正しい考え方を確立するキッカケにもなった。

そして、クレド経営により会社が変わっていった。

多くの中小企業が、コンサルを入れてもクレドの導入と運用に失敗する中、自社で独自に開発したクレドが、実際の経営の現場に少しずつ浸透し始めた。クレドを経営の要に置くことで、業績と従業員満足度の向上がしっかりと連動することも確認することができた。

その後は、採用から組織化まで一貫した価値観浸透と業績に繋がる従業員満足度の向上を、無理なく継続する手法も確立。

ただ、このクレド導入から日常の仕事の中に浸透するような運用が確立するまでの道のり、もとより平たんではなかった。

考えてみれば当然のことである。

以前の私の会社ように、経営者が全従業員の働きがいや満足度に一切無頓着で、利益至上主義で笑顔のない重苦しい空気が支配する組織がベースにある場合は、「クレドを導入する」と社内で高らかに宣言したとしても、多くの従業員はその経営者の発言や行動を好意的に受け止めるはずがない。また、どれだけ美しい言葉で、美しい未来を語ったところで説得力もない。一度失った人間としての信頼関係は、そう簡単には元には戻らないのだ。

しかし、私には「諦める」という選択肢はなかった。組織の崩壊時に経験したあの屈辱をもう二度と味わいたくない。

自社の「みんなが楽しく働けてみんなが輝ける(従業員満足度の高い)組織をつくる」ということと、その考え方が日本中の経営者の常識になるまで歩みを止めないという決意が、私を動かす原動力となっていた。

思い立ったら即行動。すべての仕事で迅速に成果を出すことを日々自分に課している私。最初は、クレドもすぐにカタチにして即導入することを目指した。

しかし、多くの会社を訪問し、多くの経営者やさまざまな立場で働く従業員の方々から話を聞く中で、クレド経営に失敗している企業の傾向が見えてきたことで、即導入という考え方を改めることとなった。

クレドを迅速に作成し、即導入することは難しいことではない。しかしそれこそが、クレド導入で失敗する原因だったのだ。迅速な作成で即導入するということは、それはトップダウンで作り、トップの意向のみで運用を始めるということであり、それが現場で好意的に受け止められるはずもない。

企業理念・経営理念という既存のものはトップダウンでつくられており、その事自体に問題はない。しかし、経営者を含めた従業員一人ひとりが、理念に向かって活動していく思考や行動の軸となる「クレド」は、会社を取り巻くあらゆる関係者にとって納得感のあるものでなければならない。その関係者の中心に存在している自社の従業員の、意志と意向を汲み取って作っていくプロセスこそが、クレド経営の成功に欠かせないことを知った。

クレドカードを作るプロセスに掛けた時間は約1年。この1年間で、キックオフ当初には斜に構えていた従業員も協力的な姿勢に変わっていた。プロセスに真正面から向き合い、焦らずに時間を掛けたことで、クレドカードが完成して導入するころには、重苦しい社内の空気はすでに一掃されていたのだった。

しかしここで安心してはならない。企業文化も人の心も、移ろいゆくナマモノである。

クレドは、従業員を縛るルールではない。思考や行動の軸となるものであり、迷った時に戻る場所であり、心の拠り所になっていなければならない。クレドカードに書かれている文言は、経営側の都合で規定されてものではなく、それぞれの関係者にとっての「こんな会社であって欲しい」が表現されている。経営者も含めた全従業員が、クレドカードに表現されている一つ一つの項目に挑戦していくのである。

それを全従業員が心から理解できるようにすることが、運用時にもっとも気をつけなければならないことである。

「クレドを導入すれば、会社の価値観を浸透させることができ、わがままを言って経営者を困らせる人間がいなくなるのでしょう?価値観や仕事観が異なる人材に悩まされることも減るのでしょう?そのために効果的で失敗しない導入方法、運用方法をぜひ教えてもらいたい」

そのような依頼をいただくことが稀にあるが、この考え方こそが、クレド導入に失敗する根本原因であると私が断言する背景には、試行錯誤を繰り返し時間を掛けて自社開発してきたからこそ得られたものがある。

全従業員が自律的に思考し、そして自律的に行動し、お客様や従業員を含めた全関係者が、接する相手にプラスの影響を与えるような人間であることを志していく。すでに創業から10年以上が経過していたが、この時にようやく正しい経営のスタートラインに立つことができたのだった。

当社の「従業員」の定義

当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。

一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。

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