プロフィール23 ウィリアム・モリスの夢を継ぐ〜 労働が苦痛であり続ける限り、美(アート)は決して人々のものにならない 〜

プロフィール
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ウィリアム・モリスの夢を継ぐ〜 労働が苦痛であり続ける限り、美(アート)は決して人々のものにならない 〜
作業場で陶器を作っている女性のイメージ画像

最初の事業を創業し、経営者としての自覚を持って以降の私は、良くも悪くも「経営者」という立場から仕事と向き合い、労働について考え、都度、最善と信じることを発信し、行動してきた。

利益至上主義かつ利己的な経営によって組織を崩壊させ、その後、従業員満足度(ES)を自分の事業と人生の目的のひとつに据えて再起動したことは、ここまで書いてきたとおりだ。

ただ、近年になって、ようやく自覚したことがある。それは、自分には常に「経営者視点」という偏りがあった、という事実だ。

みんなが楽しく働けて、みんなが輝ける組織をつくりたい。そう語り、そう信じ、そう行動してきたつもりだった。だが、その「みんな」の中に、経営者ではない人たちの身体感覚や、現場で働く人たちの実感が、どこまで含まれていたのか。その問いを、私は長いあいだ、真正面から引き受けてこなかったのかもしれない。

そのことを、はじめて自覚的に突きつけられたのが、令和7年(2025年)だった。

きっかけは一つではない。
クライアント企業の現場で働く人たちとの対話。
アートや表現の世界に身を置く人たちとの出会い。
そして、「働くこと」に違和感を抱えながらも、その正体を言葉にできずに苦しんでいる人たちの声。

そういう場を、リアルに感じられる場に立ち会う機会に立て続けに恵まれたのである。

そこで、あらためて立ち返ることになったのが、ウィリアム・モリスの言葉。

ウィリアム・モリスは、19世紀イギリスの思想家であり、詩人であり、デザイナーでもあった人物だ。産業革命によって、労働が分断され、意味を失い、人が機械の一部のように扱われていく社会に、強い違和感を抱いていた。

芸術家として知られる彼が問い続けたのは、「美とは何か」以前に、「人はどのように働くべきか」だった。労働が苦痛であり、生活から切り離されている限り、美は一部の特権階級のものにしかならない。モリスはそう考え、労働と美、生活と創造を、もう一度結び直そうとした。

「労働が苦痛であり続ける限り、美(アート)は決して人々のものにならない」

この言葉は、理想論ではない。むしろ、極めて現実的で、突き放すような警句だと、今の私は感じている。

どれだけ美しい理念を掲げても、どれだけ洗練された制度を整えても、働くことそのものが苦痛であり、消耗であり、耐えるものである限り、そこから生まれるものが、人々の心を本当の意味で豊かにすることはない。

これは、アートの話にとどまらない。組織も、仕事も、人生も、同じだ。

従業員満足度やエンゲージメント、ウェルビーイングといった言葉は、いつの間にか広く使われるようになった。それ自体は、間違いなく前進だと思う。

だが一方で、それらが「業績を上げるための手段」として消費されていく光景を、私は何度も目にしてきた。

満足度を高めれば、生産性が上がる。エンゲージメントが高まれば、離職率が下がる。たしかに、そういう側面はあるが、生産性の向上や離職率を下げること目的として、手段としてそれらに向き合うとしたら、それは手段と目的が入れ替わってしまっていると言わざるを得ない。

従業員満足度やエンゲージメントは、成果を得るための道具ではない。本来は、経営が目指すべき状態そのもののはずだ。

人が、自分の人生の時間を使って働くことに、納得できている状態。誇りや手応え、関係性の中に、仕事が位置づけられている状態だ。

その状態を本気で引き受けない限り、従業員満足度もエンゲージメントも、結局は一過性の施策で終わってしまう。さらに言えば、働くことの「美しさ」を語る前に、まず守られなければならない前提がある。

それは、壊れないことだ。

休むことを語れない社会。
立ち止まることに、後ろめたさを感じてしまう空気。
常に成果や成長を求められ、余白を失っていく働き方。

その状態で、働くことを美しい営みとして語ることはできない。身体や心が削られ続ける現場から、美が立ち上がることはない。

モリスが夢見たのは、誰もが生活の中で美しいものに触れ、自らの労働を通じて、その美に参加できる社会だった。

それは、特別な才能を持つ一部の人の話ではない。日々の仕事が、ただの消耗ではなく、意味や関係性の中で編み直されていく社会の話だ。

私は今、ようやくその地点に、かすかに立っている気がしている。経営者として「どう管理するか」「どう成果を出すか」だけを考えていた場所から、「人はなぜ働くのか」「働くことは、人生の中でどんな意味を持ちうるのか」を、あらためて問い直す場所へ。

この問いに、明確な答えはない。だが、問い続けることそのものが、すでに働き方を変え始めている。私は、今はそう考えている。

労働が苦痛であり続ける限り、美(アート)は人々のものにならない。だからこそ、働くことを、もう一度、引き受け直したい。制度としてではなく、文化として。効率としてではなく、生き方として。

この章は、その再出発の地点に、自分が今、立っているという事実を、言葉として残しておくためのものだ。

当社の「従業員」の定義

当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。

一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。

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