かつては、利益とキャッシュだけを追いかけ、その結果として業績や従業員の給与も右肩上がりに上がっていった。今となっては恥ずかしい限りだが、当時の私は事業経営の目的は「利益とキャッシュを増やし続けること」だけであると信じて疑わなかった。金儲けがうまくいけば、人生すべてはうまくいき、何もかもが手に入ると考えていた。従業員にとっても、それ以上のしあわせはないだろうと思っていた。
しかし、利益を追うあまりに大切なものを見失い、多くの従業員に愛想をつかされることとなった。
お客様の数も、お客様がお支払いくださる単価も増え続け、財務諸表で示される結果は好調極まりなかったが、その成績に反比例するようにして社内の空気は重苦しくなった。
経営陣を除いたほとんどのスタッフから愛想を尽かされた。カネでは人の心は動かせず、また誰も幸せにしないというあたり前すぎることを、この時に痛感した。仲間たちの忍耐や苦悶の結果として儲けたお金には、なんの意味も価値もないことを思い知らされた。
ベンチャービジネスを立ち上げた当初に思い描いた会社は、こんな会社ではなかったことに遅ればせながら気づくことになったのだ。
学生時代の成功体験には、必ず仲間たちの笑顔があった。仲間たちの笑顔のために尽くすリーダーこそが、自分の理想とする姿ではなかったのか。創業当初、寝食を忘れて金儲けに邁進したのも、仲間たちと一緒に全員が笑顔で輝く組織にしたいという思いが底流にあったからなのだが、いつしか手段が目的化したことに気がつくこともなく、愚かな自分が暴走していたのだった。
そこから私の経営者としての第二創業期が始まる。それまでの考え方をゼロリセットするところからやり直すことを決意。
究極まで悪化した社内の雰囲気。
捨てゼリフと共に去っていくスタッフ。
反抗的態度を改めようともしないスタッフ。
やる気なく暗い雰囲気で最低限の仕事しかしないスタッフ。
その全てを作り上げたのは、他の誰でもない私自身であることを認識して再スタートした。
事業経営の本質に立ち返り、考え直し学び直すチャンスをいただいたのだと自分に言い聞かせた。利益もキャッシュも重要ではあるが、利益もキャッシュも手段に過ぎない。事業経営の本質は何かということを、来る日も来る日も考え続けた。
その間も、お客様への価値提供を最大化するということからは一切逃げることなく、ただ利益を上げるのではなく、何のためにお客様へ価値提供をし続けるのかを考え続けた。
しかし、それまで利益やキャッシュのことしか考えてこなかった私にとっては、事業経営の本質から一歩も逃げずに向き合っていくということは、なかなか苦しいことだった。それでも、もう二度と組織を崩壊させたくないという思いと、仲間をしあわせにできないビジネスのやり方には二度と携わりたくないという強烈な思いが、私の脳に深く刻まれ、その後の強い行動を生み出したのだ。
近年、従業員満足度や従業員エンゲージメント、働きがいややりがいを高めようとする企業が増えてきたが、それらを業績向上のための手段として考える企業に対して強い違和感を覚えるのは、こうした私自身の経験によるところが大きいのかもしれない。
それまで一切学ぶ必要もないと思っていたマネジメント関連の本を読み漁った。さまざまな企業にも訪問して、経営者としての在り方や考え方を学び続けた。
その中で出会ったものの一つに、「クレド」というものがあった。ザ・リッツ・カールトンホテルを始め、さまざまなクレドを活用している企業にも訪問し、経営者の考えを聞くだけでなく現場スタッフの生の声にも触れた。
「みんなが楽しく働けて、みんなが輝ける組織をつくる」プロセスでは、クレドが大きな役割を果たすだろう。そしてクレドのある組織から生み出される商品やサービスが、お客様にも大きな価値をお届けしていく。
そう確信してクレド経営をキックオフ。
組織が崩壊して1年。2008年(平成20年)4月。すでに事業の創業から10年以上が経過していたが、ここまでの10年の失敗と試行錯誤があったからこそ、カタチだけではない本当に結果が伴うクレド経営ができるようになったのだと思う。
そして、今になって振り返ってもうひとつ思うことがある。それは、この頃に経営の現場で起こるあらゆるイレギュラーに一切動じない、経営者としての強靭な体幹がつくられていたということ。
うまくいかないことがあっても、失敗して大きな痛手を負ったとしても、安易なテクニックに頼らず即効性のあるものを求めず、長時間思考と大量行動を積み重ねてきたことで、「知力だけが高い有名企業のコンサルタントとはぜんぜん違う」というご評価を、お客様からいただけるようになったのだと思う。
当社の「従業員」の定義
当社では「従業員」を“理念やクレドに従う全スタッフ”と定義しています。
つまり一般的な社員だけでなく、アルバイトさん、パートさん、
そして経営トップや役員も従業員の一人であり、そこに優劣はありません。
一般的には、経営者に「従う」という意味で従業員という言葉が使われていますが、
当社では理念やクレドに「従う」という意味で、
経営トップも含めて関係者全員を従業員と定義しているのです。
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